チョコリエッタ
(C)寿々福堂/アン・エンタテインメント
知世子をチョコリエッタと呼んだのは母親だった。
兄弟のように育った愛犬ジュリエッタとチョコリエッタ。知世子が5歳のとき、母親が交通事故で亡くなった。それ以来、ジュリエッタだけがいつも心の支えだった。
けれどそのジュリエッタも知世子が16歳になったときに死んでしまう。知世子はジュリエッタと同じくらい短く髪を切り、犬になろうとする。そのくらいジュリエッタのいない世界はくだらなくて退屈だったのだ。
進路調査に「犬になりたい」と書いて担任から呼び出しをくらった日、知世子は映画研究部の部室を訪れた。母が好きだった映画フェデリコ・フェリーニの『道』を見ればジュリエッタに会えるような気がしたのだ。しかし、そのビデオテープは部室には無く、昨年卒業した正宗先輩の
私物だったと知る。
再会した浪人中の正宗は自室で、自分で撮った映像の編集をしていた。「目指すは永久浪人」と冷ややかに笑う。「先輩、死にたいって思ったことはある?」
知世子の問いに「殺したいと思ったことならある」と答える正宗。そんな正宗の衝動を止め支えてくれたのは祖父だった。正宗をバイクの後ろに乗せて旅に出て、知らない土地の知らない人々を見せて回った。映画を正宗に教えたのも祖父だった。その祖父も既に他界している。
正宗は知世子に「俺の映画に出ないか」と言う。知世子は仏頂面の不機嫌な顔をカメラに向けながら、自分たちにかけられた呪いについて嘯く。「先輩にはお爺さんの呪い、私には犬の呪いがかかっているってわけ。」
フェリーニの『道』のザンパーノとジェルソミーナのように、
バイクに乗ってふたりの撮影旅行が始まる。街を走り、山を走り、海に出る。
喧嘩、事故、初めてのホテル。旅は二人に何をもたらすのか――。