変身

成瀬純一は、病院の特別室で長い昏睡から目覚めた。なぜ自分がここに居るのかがわからない。しかし、医師から名前を聞かれて、「ジュン！」と呼びかける女性の声が頭の中にこだまするのだった。彼は毎週金曜日に画材店に通う。工場で働く彼は、絵を描くことに熱中しているのだ。恵はその画材店で働いている。ある日、勇気を出して恵を湖のある森へと誘う。そして、これまで風景画しか描かなかった彼は、恵の肖像画を描きはじめる。そんな恵との幸せな日々を病院のベッドで思い出す。ある夜、彼は解析室に入り、低温保存庫の中に人間の脳の標本を2つ発見する。ひとつには純一のイニシャルである、「JN」と記されていた。これまで説明をしぶってきた、担当医師の堂元に問いただした。彼の手術は世界初の脳移植で、損傷部分に他人の脳を移植したのだと聞かされた。あの日、純一は、恵と一緒に住む部屋を探しに不動産屋にいた。そこに拳銃を持って青年が入ってきて金を要求した。奥で遊んでいた少女が出てきた時、驚いた犯人は少女に銃を向けた。とっさに純一が少女をかばうが、純一の頭に銃弾が撃ち込まれたのだった。退院が近づく。恵が訪ねてくるが、彼は食べ物の好みや絵のスタイルも変わっていた。温和な人柄が粗暴になっていた。純一の耳にピアノの音が聞こえてくる。それは純一の記憶ではない。誰かの脳の記憶だ。一体誰の脳が移植されたのか？苦悩する純一の前に、強盗事件を起こした瞬介の双児の妹が現れる。瞬介が童謡「くつがなる」弾いていたという、おもちゃのピアノを差し出す。純一は自然とその曲のメロディを弾くのだった。