博士の愛した数式
(C)「博士の愛した数式」製作委員会
芥川賞作家小川洋子のベストセラー小説が、小泉堯史の手によって、こんなにも香気あふれる上品な作品となってスクリーンに登場する。全編を通じて漂う、なんとも穏やかな静謐感。そして暖かな、人間そのものへ注ぐ大きな愛。日本映画に受け継がれてきた“心”の鮮やかな結晶。かつて黒澤明の助監督として永くキャリアを積んだ小泉監督だからこそ、その精神も、その良心も継承して、さらにそれをより高い位置にまで昇華させたと言えるのではないだろうか。原作の持つ透明感にあふれた文体の魅力を、映像という異なったフィールドで、一層深みを増した作品に仕立て上げた力量には、無条件に敬意を払うしかないと思う。優れた原作と優れた監督による、最高のコラボレーション。
日本映画は、また一つ大きな財産を得たことになる。
※01年に、「メメント」という作品があった。同じように記憶が持続しない状況下に置かれた男の話だが、これは壮絶な復讐の物語で、これもまた秀作だった。同じような生涯を持つ男を主題に取り上げながら、日米の発想のこの極端なまでの違い。ある種、文化論など戦わせたくなるほど、その感性の違いを見比べてみるのも面白いかもしれない。