愛をつづる詩(うた)

彼はレバノン人、祖国に絶望しイギリスへと亡命してきた。彼女はアメリカ人、愛の冷めた夫婦生活に絶望を感じている。ともに大切なものを失くした二人が、ともに異国の地であるロンドンで出会った。異なる環境、異なる文化、重なるはずのなかった二人の人生は、偶然ふれ合い、必然として結ばれていく。女性らしい繊細でキメ細やかな心理描写と、美しい風景描写に定評があるサリー・ポッターが、男と女の心の機微を、シットリと情感たっぷりに描きつくした愛の物語。舞台はIRAのテロ活動の場ベルファスト、戦火の耐えないベイルート、革命に揺れたキューバのハバナへと流れ、その不安定な状況が、主役二人の、内面の不安感とリンクしていく。いままさに崩壊してしまおうとする瀬戸際の美しさを、サリー監督の目だけが的確に捉え、スクリーン上に凝結させていく。ありきたりのラブ・ストーリーでなく、陳腐なお涙ちょうだいでもなく、現在の世界が置かれている穏やかではない状況を、男女の心の語り合いを通して訴えようとしているのかもしれない。宗教、文化、習慣、貧富、世の中は決して平等ではない。しかし、その不均衡の中にこそ我々が知らなければならない、理解しなければならない真理が存在するのかもしれない。監督サリー・ポッターの、愛と平和を訴える声が聞こえてくるような、見事な愛の物語であろう。

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