停年退職

(C)KADOKAWA 1963
矢沢章太郎の停年退職の日はあと九十日に迫っていた。妻に先立たれた彼は年頃の娘のぼると高校生の章一、姿やとの四人暮しだが、この所急に身辺多忙となってきた。一つは退職後の勤め口のこと、これが思うようには見つからない。もう一つは部下の小高秀子が妻子ある男との恋愛に悩んでいるというので忠告したが、彼女はプライバシーの侵害だといって受けつけない。同じ年ののぼるが最近失恋したらしいと聞いたばかりなので他人事とは思えないのだ。更に行きつけのバー・ぐんじのマダム道子から、結婚を申し込まれたことも彼の心を大きく揺さぶっていた。

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