22 歳で夭逝した天才画家であり詩人の村山槐多(1896 – 1919)の作品に魅せられ取り憑かれた現代の若者たちが、槐多の作品を彼ら独自の解釈で表現し再生させ、時代の突破を試みるアヴァンギャルド・エンタテインメント『火だるま槐多よ』より、佐藤寿保監督のオフィシャルインタビューが到着した。
タイトルの由来は、槐多の友人・高村光太郎の詩「強くて悲しい火だるま槐多」。”ピンク四天王”と称される佐藤寿保監督が、槐多の代表作である自画像”尿する裸僧”と出会い、槐多の感性に感銘を受け、「現代人の眠っている潜在意識を呼び起こし感応させるのだ!!」と本作の制作を決意した。W主演の槌宮朔役には、『佐々木、イン、マイマイン』などの遊屋慎太郎、法月薊役には『背中』で映画初主演を飾った佐藤里穂を抜擢。パフォーマンス集団の元村葉役に工藤景、民矢悠役に涼田麗乃、庭反錠役に八田拳、早川笛役に佐月絵美が集結し、研究施設を脱走した4人を観察する亜納芯役で田中飄、朔を見守る式部鋭役で佐野史郎が脇を固める。
──企画の発端を教えてください
俺は元々怪奇小説を読むのが好きで、村山槐多の小説『悪魔の舌』も好きだった。ちなみにこの小説は江戸川乱歩曰く、日本の小説として初めてカニバリズムを扱ったものらしい。槐多の絵画や詩はもちろんの事、幼児期からの破天荒ぶりにどこか惹かれるものがあって、渋谷の松濤美術館でやっていた『没後90年 ガランスの悦楽 村山槐多』に行った。そこで初めて生の『尿する裸僧』の油彩画を目にしたときに、ザワザワと体の奥底から沸き起こる何かを感じた。それが今から14年前。漠然としながらも「槐多を題材にした映画を撮りたい」と思った始まりだね。
──どのような議論を重ねてシナリオ化していったのでしょうか?
当然ディスカッションは重ねた。でもそれはどんなストーリーにするか?という話ではなく、どんな登場人物を出そうか?という点に重点が置かれていた。ストーリーの中には槐多の小説や詩、絵画を散りばめてはいるけれど、小説の脚色とか評伝なんかにする気は毛頭なくて、槐多が生み出した芸術や表現というエッセンスを俺なりに嚙み砕いて吐き出して、俺にしかできない予測不能な映画を目指した。俺も映画監督という表現者の端くれなわけで、まさに表現の大爆発を観客たちに浴びせて大いに感じてほしいと思った訳だ。
──W主演の遊屋慎太郎さんと佐藤里穂さんの印象をお聞かせください
2人とも純真さがあって、芝居も凝り固まっていないのが良かったね。ただ性格が良くて優しすぎるところがあって、それが表情や仕草に出てしまうんだ(笑)。槌宮朔と法月薊はある意味で一卵性双生児的でもあるわけで、キャラクターとしては社会と対峙しているようなパンク精神が必要だった。それを表すために遊屋には髪の毛をガチガチに逆立ててもらって、衣装も一点だけにした。佐藤には髪の毛を後ろで結っておでこを出してもらって、眉毛も斜めにスッと細く引いてもらった。ヴィジュアル面での工夫も功を奏して、お互いにドッジボールではなく心地いいキャッチボールができていたと思うね。
──パフォーマンス集団(工藤景、涼田麗乃、八田拳、佐月絵美)についてはどうですか?
パフォーマンス集団は個としての面白さもさることながら、全体のバランスも重要だと思った。4人ともに年齢も経験もバラバラだったので、まずはダンスが得意な工藤をリーダー格として配置して、残りの3人をそれぞれのポジションに入れ込んで収めた。この4人のバランスが上手く行ったことで、パフォーマンス表現も面白いものになったと思う。
──佐野史郎さんの謎めいた雰囲気も素晴らしかったです
佐野史郎さんとお会いするのは今回が初めてだったけれど、いまでも自主映画に出ていたりと、自分が面白いと思う作品を選んで仕事をしているようで気になる存在ではあった。そして佐野さんならではの存在感!撮影ではこちらから細かく演出することはしないで、思うようにやってもらった。佐野さん独特の存在感はこの映画にマッチしていると思う。これは感覚的なもので、もはや理屈じゃないよな!
──今作でもこれまで同様に、佐藤監督ならではのアウトサイダーへの眼差しがしっかりと刻み込まれています
俺は今までどんな登場人物を描いてきたのだろうか?と考えると、まさしくアウトサイダーをずっと描いてきたと言える。社会から疎外されているのではないか?と怯え、葛藤し、社会に押しつぶされないよう踏ん張って抗いながらもパラノイア的になる人間たちのその姿。俺自身、上京したての頃は視線恐怖症的なところがあって、映画を観に行こうとして新宿の人込みから感じる視線の暴力に耐えきれなくて、そのまま映画を観ずに帰るなんてこともあったから…。
──観客に向けてメッセージをお願いします
『火だるま槐多よ』をどう観るのか?それは観客の皆さんの自由です。…感じてください!より多くの老若男女に感じて欲しい!それ以外のメッセージが思い浮かばない(笑)。村山槐多を知っている人も、知らない人も楽しめる刺激物たっぷりの内容だと思うし、予備知識を入れずに観るのもこの映画を面白がる一つの方法かもしれない。社会的模範という抑圧を受けながらも、自分なりの美を追求して狂い咲いて22歳で死んだ村山槐多。その精神を受け継いだ登場人物たちの表現と戦いを観て感じてもらえたら、非常に嬉しいです。
(取材・文・構成/石井隼人)
12月23日(土)〜1月12日(金)新宿K’s Cinemaにて公開他全国順次公開